セミナーレポート

ベヒシュタインGPの整音

20年経つピアノでハンマーの整形とそれに伴う音色の調整を実演しました。

■整音とは?

工場出荷の段階で完成された音つくり。これが年数とともに、使用状況とともに変化して、消耗していきます。これらの整音をどのようにしたらよいでしょうか。
一度出来上がって弾かれ続けたハンマーの整音、これは工場での整音とはまた違った状況判断が必要になってきます。
 

■お客様への説明

ピアノの置かれている環境でも整音作業の方向性がまったく逆の場合もあります。
普段、調律にうかがったときにできる作業は限られています。そこで、ある程度消耗してきたハンマーの整音をどの時点で行うか、また、費用も含めての話をいつお客様にするか、このタイミングはかなり難しいです。
削れば良いだけではありません、針を差すだけでは整えられません。

 
 

■工場出荷の基準違う

同じ年数たったヤマハとベヒシュタインのアクションのハンマーの表面を見比べていただきました。おかれていた環境が違うということもありますが、まず、表面の仕上げの精度が違うため20年後結果が見えています。
 
ヤマハは表面が毛羽立ち外側に沿った感じで、弦の跡も周りの毛羽で包まれてしまいそうです。
 
反面ベヒシュタインは、きれいに表面を仕上げ、毛羽を取っているため年数が経っても環境の変化に左右されていません。つまり整音状況が安定しているということです。

■表面を一皮削って。

全体のファイリング作業は約1時間で仕上げます。88鍵使用頻度がすべて違うので、消耗度合いも違ってきます。同じように削るのではなく、状況を見て削っていきます。

 

■最後の仕上げは

削り終わった後の仕上げは、もう一度弦の当たりを見て、音色を確かめ、ソフトペダル使用のときの音色もそろえます。このベヒシュタインは作業後の音のばらつきは本当に少なく、最初の段階での音つくりの精度がすばらしいことを物語っていました。
これらの音をしっかりと聞き分けていただいたのと、ピアノのよさを出すということは、さわりまくることではなく、本質の部分を引き出すやり方だということを、少なからずお伝えできたのではないかと思います。
 

■最後に。

重ね重ね、ベヒシュタインのこのモデルが生産されなくなったのは残念でたまりません。この時代の音つくりの伝統が消えてなくならないように、何かの形で伝え続けて生きたいと思います。

お越しいただいた方から感想をいただきました。

今日は、ファイリングの実演を見ながら、整音の技術をとてもわかりやすく説明いただき良かったです。ハンマーの研き方一つで音色に影響すること等は、ピアノが工芸品ということが再認識できました。 ありがとうございました。(K.T)
 
 
今まで総アグラフのベヒシュタインのグランドピアノを生で聴いて、心から感動した経験が多くありませんでした。僕の中のベヒシュタインの良いイメージは、ボレットのCDで聴くベヒシュタインの音色でした。また、オーディオ好きの友人宅で聴いたリパッティ・ギーゼキング・シュナーベルも美しかったのですが、生ではどういう音色だったんだろう?というのは想像でしかありませんでした。これからはカポ・ダストロバーのベヒシュタインの音色を聴く機会の方が、一般的になってしまうのかなと考えてしまいます。今回の経験はベヒシュタインの本当の表現を知ることができただけでも、大きな収穫でした。作業前に弾かせて頂いて、その状態でも素晴らしい音色でしたが、これからもっと良くなると思うだけでワクワクしながら作業を見させて頂きました。ハンマーのファイリングも日本の気候のことを考えれば、削った後にアイロンで毛羽立ちを寝かすとその後また毛羽立ってくる。それ故、仕上げの細かいペーパーで削る。このことは作業の仕上がりやその後の変化考えて、僕自身これからの作業に役立てて行きたいと思います。削り方の仕上げのコツや弦合わせの注意点。ポイントポイントを教えて頂きました。ファイリンク後の平らになったハンマーをきちんと、ウナ・コルダとトレ・コルデで差をつける方法も大変勉強になりました。その他にも色々な技や質問にも答えて頂き有難うございました。作業後、更に音の立ち上がりが早くなり、弱音の表現が豊かになりつつボリュームのある音も出て、甘く包まれるような音色は、耳からたくさんご馳走を頂いた思いです。このような環境(クラヴィコード・スピネットも含めて)でレッスンできれば、音量の変化以外に音色の変化も意識でき、表現の広さを楽しんで学ぶことができる生徒さんを羨ましく思います。(Y.S)