セミナーレポート

「鍵盤の重さの秘密」

一言で鍵盤の重さということはどういうことでしょうか。メーカーによって、時代によって、環境によって重さが違うのをご存知でしょうか。タッチが重い、軽い、音色との絡みも含めて鍵盤の重さの秘密に迫ります。

歴史的鍵盤楽器の鍵盤の重さ

うたまくらならではの取り組みです。ピアノができるまでの鍵盤楽器がそろっているため、実際に重さを比べていただきました。鍵盤はもともとシーソー運動です。音を出す仕組みはいたって簡単で鍵盤の重さは今のピアノと比べ極端に軽いものでした。
 

■10g?100g?

普段物理的な重さを意識していなかったため「何グラム?」という数字に表されるとピンときません。指先の感覚を鋭くして感じるというところから体感していただきました。
 

 
 

パワーの時代のピアノ

1850年前後に音楽的にも大型化、パワーを求めるものが出てきました。そこで製作者はピアノの音のパワーを求めるためには“鍵盤を重くし強く叩く”という結論に達して、音色を無視した現代の重さの倍の重さのピアノが生まれました。

■100gの時代を否定する

もちろん100gというこの重さでは弾けるはずがありません。特にppではコントロールが効きません。改めてpp,ffの仕組みを考え直した結果、鍵盤の降りるスピードに関係することがわかりました。もちろん弾きやすい重さの鍵盤で。

設計図ではそろっている

現在では鍵盤の重さは世界中どのメーカーもほぼ50g前後で落ち着いています(例外もあります)。人間工学的にもきっとよい結果だと思います。しかしこれを88鍵そろえなくてはタッチがそろいません。そろっていないと軽くても「弾きにくい」のです。国産はその点、機械化で図面どおりの穴を開け鉛で重さをそろえていますが、誤差が出ます。この誤差が弾き手の感性の邪魔をするのです。

■最後は手作業、人間の感覚で

世界の一流といわれるメーカーはピアノが出来上がるまで鍵盤の重さ調整を何回も行ないます。そうです、一鍵一鍵の誤差をなくすため、手作業で鉛の位置を決めバランスをとり、重さを揃えます。この土台の上に精度の高い調整が可能となるのです。

 

「重さ」という言葉のマジック

個性の違うまったく同じ重さの2台のピアノを弾いていただきました。面白いことに音色によって、タッチによって重さの感じ方が違います。皆さん音の柔らかいほうが重いと感じ、音の良く出るほうを軽いと感じました。単純に「重い」と表現されたピアノのその裏にはいろんな意味が隠されているのです。

■言葉のマジックを操るのは弾き手、見抜くのは技術者

歴史的にも重い鍵盤は否定され、メーカーによって違いはあるものの、ある程度の下がる重さ、鍵盤の戻る重さが確立されました。弾き手は鍵盤を触りその感覚を言葉に直し、技術者に伝えます。このコミュニケーションの理解力、伝達力、そして技術力がこれからの時代必要だと思います。

お越しいただいた方から感想をいただきました。

初めて参加させていただきました。実際に色んな楽器の鍵盤の重さを体験させてもらえたり、興味深いお話が聞けてとても楽しい時間でした。同時に自分の感覚ももっと磨いて、家のピアノを良い楽器にしていただけるように出来たら・・・と、思いました。(S.K)
 
 
ピアノの先生に教わるのは“演奏者の目から見たピアノの話”に限られてしまうので、“技術者の目から見たピアノの話”が聞けるのはとても貴重です。演奏技術を磨くのも大切ですが、コミニュケーション能力も大切にしなければならないんだと思いました。そうしないと、自分に合うピアノを技術者の方に作ってもらうという事ができませんものね。ここで聞いたお話を少しずつ演奏に活かしていきたいな、と思いました。(N.N)
 
 
STEINWAYは手作り手作りと言われていて、聞いた事があったのは鉄骨と響板の関係ぐらいだったので、鍵盤の重さまで、一つ一つ手作業だったのはすごいなぁと思いました。100g鍵盤は指の力が弱かったせいなのか音がこもって聞こえました。チェンバロからピアノまでの大まかな歴史は知ってたものの、CDでも聞いてたものの、実際自分が触って音を聴くのは初めてで音の違いやタッチの違いが体感できて感動しました。ピアノが出来てから今のピアノに落ち着くまでの試行錯誤など知らなかったので、音を大きくする為に鍵盤を重くするという考えの時代があったなんてなんだか素敵です。演奏者との感性の違いを少しずつ歩み寄ってキャッチしてピアノを調整するというお話に心を掻き立てられました。(I.H)
 
耳から得る情報(=音)が手から感じる重みにこんなにも影響していて凄いなと、面白いなと思いました。弾きやすさは個人で全く違う訳で、それを弾き手に合わせて1つずつ微調整していけるようになるには一体どれくらいの技術を修得しなくてはならないのかな・・・と気が遠くなりましたが、とても興味深い世界だなと思いました。(K.I)
 
クラヴィコードやチェンバロの鍵盤の重さなんて考えた事が無かったのでgまできくとびっくりしました。ブラームスやマーラーの時代には鍵盤の重さが100gくらいで弾いていたと聞いてびっくりしました。実際に1セクションだけ100gの重さに作られたピアノを弾かせてもらい、あまりの重さにびっくりしました。普通には弾けない・・・。鍵盤の重い軽いも自分の基本的な感覚(家のピアノの鍵盤の重さ)があるからこそで、最初にちゃんと整調されたピアノを弾かないし、知らないうちに凄く重たいピアノを普通と思って弾いている事があるだろうと思いました。(A.O)