プロフィール


歌枕直美(うたまくら なおみ)
歌手・作曲家・音楽プロデューサー

言葉には力がある、その様な万葉集の和歌に日本人の心の原点を感じ、西洋音楽と融合させたCD「みやびうた~音楽で綴る万葉集」シリーズを、1997年より発表。万葉集を音楽にして現代に活かす先駆者となる。さらに2002年より、万葉集を根幹に古事記、日本書紀に伝わる和歌を歌うことにより歴史の中にある知恵を表現する新しい舞台芸術「和歌劇~和歌と映像で語る歴史物語」を創作し、国内外で公演。10年にわたるヨーロッパ公演では、”日本の心を感じた”との評価を得る。さらに 2017年より日本建築の佇まいに襖絵の様な映像と音楽を組み合わせた歌と語りの舞台劇「音絵巻」を発表し、新たな世界を創出。また、各地に残る歴史文化を再発見し、その中にある知恵を新たに展開していこうという試み「歴史的建築空間を生かすコンサート」を企画し、30年以上に亘り行っている。

歌手・音楽家・音楽プロデューサー。1992年に現株式会社うたまくら.(当時有限会社うたまくら)を設立。代表取締役社長として、うたまくら茶論・うたまくらピアノ工房・歌枕直美音楽教室を主宰し、芸術普及活動を推進している。2016年より橿原市観光PR大使を務める。

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~財界人文芸誌「ほほづえ」2014年新年号 芸術時評に紹介されました。(掲載記事一部抜粋)~
 

 
芸術時評 「見残しの大阪文化」   野 村 明 雄 (大阪ガス相談役)
 
珠玉の大阪文化・三題
 大阪には、東京にはない、独自の文化や歴史遺産、伝承が数多い。これからも、意外と知られていない、隠れた大阪・関西文化を、一つひとつ丹念に掘り起こしていく作業が必要だ。そうした多くの珠玉の文化・芸術の中から、私なりに三つを取り上げて、以下に紹介したい。
(1)山本能楽堂
(2)関西ジャズ協会
(3)和歌劇
 万葉集研究の大家で、“犬養節”の朗唱で知られる故 犬養孝先生は、かつて、万葉歌を紹介し、歌に愛着を覚えるには、「自分流の節回しでよいから、必ず聲に出して歌うこと。字面だけでは見えてこない発見がある」と言われた。
 歌劇の分野でそれを実践し、独自の芸術様式を確立したのが「和歌劇」である。歌手であり、作曲家、プロデューサーでもある歌枕直美さんが、万葉歌を自作の旋律に乗せて歌い、歴史のドラマを語る。万葉集に始まった舞台は、今では最古の和歌が載る古事記にまで広がっている。古代から伝わる和歌を音楽にすることで、「先人たちが歴史物語に込めた知恵や感情を現代に再生したい」と、古代歌の語り部・歌枕さんは意気込む。
 
知恵・磨く・発信する
 これら三つの文化・芸術は、いずれも、世に悔蔑的に喧伝されているような“粗にして野にして卑な的な大阪文化”とは対極的にあるものばかりである。このような奥ゆかしい文化が「知る人ぞ知る」存在にとどまっていては誠に勿体ない限りである。あまり広くは知られていないものの、大阪・関西の地に息づいた趣のある文化は、他にもまだまだいろいろ有る。中には貴重な文化財が散在していたり、未整理で保存状態が悪かったりすることもあると聞く。こうした市井の文化に光を当て、自らもそれを育み、そして国内外の多くの人に知ってもらうことには大きな意義がある。何よりも、大阪の人自身が率先して、大阪の文化の良さを、「知る・磨く・発信する」ことが先決であろう。
我々が大英博物館や故宮博物院、あるじは奈良国立博物館の正倉院展などを訪れて驚くのは、あまりにも多くのものがそこに展示され、さらに館内にはそれに何十倍するものが秘蔵されているという事実である。一見するだけで、それらの物量と質の高さに圧倒され、一日やそこらではとても見尽せないと観念してしまう。こうした一種逆説的な期待感・高揚感をもたらすものを「見残しの美」と呼ぶという。都市や街の文化についても同じことが言えるのではないだろうか。駆け足で、さっと見流すだけで、全てが分かってしまうような街の文化は、そもそも魅力的なものであるはずがない。見る人も二度と訪れることはないだろう。
 それとは逆に、簡単に端折って見巡ることなど到底不可能で、何度見に来てもなかなか全貌がつかめない。それどころか、繰り返し訪れるほどに、それまで見過ごしていた新たな景色、意外な風貌を発見することになる。そういう重層的で、味わいのある文化に出会える街は、何かにつけて刺激的で、魅力的である。
 訪れた人が悠久の歴史に圧倒され、やむなく見残してしまうような文化の数々、その街に一歩足を踏み入れた途端、とても見尽くせないことを思い知らされる懐深い佇まい、そうした有形・無形の文化・芸術を育む街を大阪は目指すべきである。そして、大阪市民には、それを叶えるに足る十分な雅量、資質があるものと確信する。

(のむら あきお)
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