歌枕直美 友の会

うたまくら草子
歌枕直美の心から語りたい
vol.15 奥村彪生

伝承料理研究家の奥村彪生さんの料理スタジオにお邪魔し、木簡や古文書から探る万葉食のお話などをお聞かせいただきました。


■お料理の秘訣
 
歌枕直美:ご無沙汰致しております。以前酒蔵での催しの時に、ご一緒させていただき先生のお話、お人柄に感動し、是非お話をお聞かせいただきたいと思っておりました。先生が、料理の道に進まれたきっかけは、何だったのでしょうか。
 
奥村彪生氏(以下敬称略)家族が多かったので、家事は自分でするという習慣で、小さいときから、好きと言うよりも上手でしたね。
 
歌枕:先生の料理の秘訣とは何でしょうか。私は料理が好きで、是非お教えいただきたいのですが。
 
奥村:「料理は心のみ」とは言いませんね。価格、技術、センス、計算(時間の計算、人の心をよむ、細やかな気遣い)、脳を全開させて仕事に取り組む。食べる方を納得させる闘争心ですね。
 
歌枕:やはりおいしくなくてはダメですよね。また、大学でもご指導されていらっしゃいますが、作ることと教えることの違いはありますでしょうか。
 
奥村:教えることは科学的で、合理的でないといけないと思います。「一を習って十を知る、十より帰る元の一に」は千利休の教えでとても科学的です。でも今は精神性を語るのみになってしまっています。
 
歌枕:今では、日本の伝統文化の茶道、華道も本来の教えでなく、形式に変わりつつあるような気がし残念です。
 
奥村:「私は、型にはめません。学生には創作意欲が湧くように指導を行っています。やはり、「私はこうしたい」という思いがないといけない。基本は必要ですが、個人の個性、特性を活かすことが大切だと思っています。
 
歌枕:本当の指導というのは、相手の中にある能力を引き出していくことですね。先生の生徒さんは幸せですね。
 
奥村:食を通じてコミュニケーションがとれる。ふと考えてみると、食べることを通じて、社会に寄与しているんだなと思います。
 
■歴史観と伝承
 
歌枕:古代食の復元をどうしてはじめられたのですか。
 
奥村:料理をしていく中で、「切る」「煮る」だけでいいのだろうかと、頭を打ちました。この料理は今、どうしてあるのか。など歴史に興味を持ち、また次世代に自分はどう伝えていくことができるのかと考えるようになりました。
 
歌枕:きっかけはおありでしたでしょうか。
 
奥村:平城京跡の継続的発掘調査20周年記念としてNHKが「よみがえる平城京」を企画されたとき、当時の料理を再現してみないかと声をかけられたことでしょうか。
 
歌枕:でも、何を食べていたのか、どんなふうに料理していたのかなど、何を手がかりに作られたのですか。
 
奥村:奈良時代の木簡、正倉院の古文書、中国の文献、古代の日記などを、読み下しながら、食べ物について書かれているところをひらっていき、メニューをつくる。録画の日は、包丁一本もって出かけましたよ。(笑)
 
歌枕:このお仕事をされる中で、おもしろいと思われたことはありますでしょうか。
 
奥村:長屋王の宴会料理を再現するとき、麦縄(素麺の租)を使ったのですね。そうすると、「ホントに素麺はあったのか?」と言われ、「そのうち木簡が出土するやろ…。」と言ってたら、本当に出てきました。(笑)
 
歌枕:それはすごい。(笑)
 
奥村:平城京は、日本における国際都市であったことがよくわかります。インドやペルシャからも人が来ており、油飯(ピラフ)もあったのです。そして奈良時代には、すでに日本を代表する薬味は出そろっており、今に伝わっています。
 
歌枕:その頃の日本、奈良はきっと、活気溢れる都だったのでしょうね。万葉集の歌の中でも、日本人のいろんな風習が歌われており、今に伝承されているものを見つけることができます。
 
■歌を枕に!
 
奥村:歌枕さんの歌を聴かせていただいて、いつも素敵だなと思い、僕も歌おう…(笑)と、思いました。実は「歌を枕にしている人の歌です。」と、紹介して各地での講演の最後に歌っているのですよ。(笑)
 
歌枕:それは、ありがとうございます。(笑)
 
奥村:料理も音楽も美的感覚がないといけない。美学というのは人の心を豊かにする。歌枕さんの声は人を魅了する。高音の何とも美しい響きが、深く澄み渡った夜空の三日月のように…ヒュっとひるがえる。
 
歌枕:「三日月」との表現は初めてです!。食があり、お酒があり、音楽があり、会話が弾み、人は心が豊かになると思います。そんな空間作りをと、私も思っています。本日はありがとうございました。 
 
 

奥村 彪生 (おくむら あやお)

1937年、和歌山県生まれ。

伝承料理研究家、神戸山手大学特認教授。

奈良女子大学非常勤講師。

大阪市立大学生活科学部大学院博士課程非常勤講師、他。

奥村彪生料理スタジオ「道楽亭」主宰。

平成6年度、食生活文化賞受賞。

奈良、飛鳥時代から明治・大正時代までの様々な料理を復元。

平成13年和歌山県文化功労賞受賞。

平成14年度社会文化賞受賞内定(皇室関係財団)