歌枕直美 友の会
創刊35年の「上方芸能」の創刊者でいらっしゃる木津川計さんにご登場いただき、生活文化についてお話をお伺いいたしました。
■上方芸能
歌枕直美:先日は、35年の歴史のある「上方芸能」の誌面で、ご紹介いただきましてありがとうございました。どうして「上方芸能」を発行されるに至られたのですか?
木津川計:創刊した1968年は、高度経済成長の時代で、文化・芸術が軽視され、歌舞伎や文楽の劇場から観客がどんどん減っていったのです。落語、義太夫、講談などの語りに関心をもっていたので「伝統芸能がんばれ!」という思いと、やはり雑誌の編集が好きだったからですね。
歌枕:35年を、一言では語れないと思いますが、ご苦労などありましたか。
木津川:初めの10年間は原稿料なしで名だたる方々にご執筆をお願いしてまわり、ご協力を得て発行を続ける。それが苦労やったですね。
歌枕:すごいことですね。新しいことをはじめ、信念をもって説得されていくことは、本当に大変なことだと思います。
木津川:中には、原稿料がないと書かないと断られる方もおられましたが「ここで退いていたらできない!」という思いで、その方より上のランクの人に頼みにいき、断られたら断られるほど、いい内容のものができました。(笑)
■ IT時代
歌枕:大学で「生活文化論」を教えていらっしゃるとのことですが、「生活文化」とは何でしょうか。
木津川:文化生活は、物への満足。生活文化は、心の満足。経済の時代は終わって、生活文化の中身が問われていく。都市の格は、文化のあるなしだと思います。15年ぐらい前から、やっと行政や経済界も変わってきたように思います。
歌枕:「物の時代」から「心の時代」大きな違いですね。何を持つかではなく、どうあるかですね。やっと変わりはじめたのですね。
木津川:今がいろんな意味での転換期。IT革命が進むにつれて、古い物が淘汰されていくように見えるが、反対に気づいていく時代です。
1つの例をお話すると、最近、漢字検定を受ける人が増えているんですね。調べてみますと、それはITの普及と比例しているんです。
歌枕:おもしろいですね。何事もバランス。どんなにITが進化しても、人間には、基礎的な学力、教養が必要ですね。
木津川:その通りです。日本語は、同音異義語がたくさんあるので、パソコンでの変換してもどの漢字が正しいか分からない。大変。そこで、漢字能力が下がっていることに気づくんです。
■美しいものへの回帰
歌枕:具体的に、劇場文化などは、見直されてきましたでしょうか。
木津川:「音楽」「演劇」「笑い」のどの領域でも、60年代以降などの伝統への破壊につぐ破壊が行き着くところまでいって、その反動で、美しいものを求めはじめ、本来の姿に回帰しはじめたと思います。
歌枕:私も自分のここちよいものを求めて、今の自分の音楽の世界ができてきました。
木津川:歌枕さんの歌唱を聴かせてもらって、ソプラノや日本語の美しさ、作品のすばらしさを感じます。聴いていて、耳に馴染む日本語の旋律があります。深く胸に刻まれる歌は、そういうものだと思います。
歌枕:ありがとうございます。「万葉集」を歌うようになって、それまで気がつかなかった日本語の美しい語感や言霊など多くの発見がありました。
木津川:歌枕さんの音楽は、今の時代に必要なものと思いますよ。これからも日本の旋律を大切にした歌を、歌っていってください。それが五十年後に残っていくと確信をもってほしいですし、美しい旋律への音楽の流れを歌枕さんの立場から、擁護していってください。
歌枕:はい。心に響く歌を歌い続けていけるよう、努力していきたいと思います。本日は、お忙しい中有意義なお話をありがとうございました。
木津川 計 (きづがわ けい) | 大阪市立大学文学部社会学科卒業。 1968年、雑誌『上方芸能』を創刊。 以来1999年3月まで編集長・発行人をつとめる。現在、立命館大学産業社会学部教授。『上方芸能』代表、発行人。 芸術選奨文部科学大臣賞選考委員/兵庫県川西市生涯学習短期大学学長 他。 NHKラジオ「木津川計のラジオエッセイ」・「ネットワーク関西」コメンテーター。 主著『文化の街へ』(大月書店)・『上方の笑い』(講談社現代新書)・『人間と文化』(岩波書店)他。 京都市芸術功労賞受賞。京都新聞文化賞受賞。大阪市文化功労市民表彰。 第46回菊池寛賞受賞(1998年12月)。 |
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