歌枕直美 友の会

うたまくら草子
歌枕直美の心から語りたい
vol.26 相原 郁子

国の有形文化財として登録されている伊豆修善寺温泉「新井旅館」をお尋ねし、相原社長にお伺いしました。


■新・修善寺物語

歌枕直美(以下歌枕) 伊豆、修善寺に来るのははじめてです。文化財に登録されている素晴らしい旅館があるからとご紹介頂き、とても楽しみにしていました。

相原郁子(以下相原) ありがとうございます。この辺りは130年前は湯治場で、その後保養、食事ではじめたのが明治5年。今の「新井旅館」の基礎となりました。

歌枕 老舗の旅館に嫁がれるのは、どのようなお気持ちだったのでしょうか。かなり勇気のいる決断であったのでは(笑)。

相原 主人は次男でしたので、はじめはサラリーマンの嫁になる感じで気楽な気持ちでしたが、状況が変わり女将になり、社長になり旅館の経営を考えていくことになりました。

歌枕 伝統を守りながら、経営をしていかれるのは、大変なご苦労があるのではないでしょうか。

相原 はい。バブルもはじけて、お部屋が良い、お料理がおいしいのみでは成り立ちません。Only one のものがなければと思い、10年前より旅館が持っている文化財を紹介し、修善寺にある「新井旅館」を知って頂こうと思いました。また、ちょうど世の中の流れもあり、日本の古い建造物を残していこうという登録文化財制度ができ、旅館の建物が有形文化財に登録されました。

歌枕 小説「修禅寺物語」の岡本綺堂や横山大観など、多くの文人や芸術家の作品がここで生まれたと拝見しましたが、どうしてなのでしょうか。

相原 三代目の相原寛太郎(沐芳)が、上野の美術学校で学び画家を目指したのですが旅館に婿入りした為、館主として芸術家と親交、支援をしていました。そのため旅館には大切な物が残されていたのですが、当たり前のように客室にあったので、誰もその貴重さに気がついていませんでした。

歌枕 身近にありすぎると、その価値がわからなくなるものですね。

相原 今は、文化がこのようにして生まれ、守られていることを紹介していきたいと思っています。

■空間芸術

歌枕 美術品をこのような佇まいの中に、ごく自然に飾られているのを見せて頂くというのは、とても素晴らしいし、ありがたいことですね。

相原 はじめ展示の仕方を美術館の方に相談したのですが、和室には展示用の壁がありませんので、こういうのは、初めてだと言われました。

歌枕 美術も音楽も同じかと思うのですが、ホールでないといけないとか、固定概念で決めつけてはいけないですね。

相原 美術館では靴を履いて見ますが、ここでは靴を脱いで作品を身近に見て頂けます。また、コンテンポラリーアート(オブジェ)などを、持ってこられる方もあります。

歌枕 徐々にそういう所に着眼点を持たれる方が増えてきているのかもしれませんね。アーティストにとっても新たなる発見があるのではないでしょうか。

■日本文化の継承

相原 今の人は、日本の歴史や文化を全く知らなくなってきています。例えば、障子や床の間、欄間をここにきてはじめて見ましたというお話しも聞きました。かえって外国からお越しになるお客様の方が、よくご存じだったりします(笑)。

歌枕 私も知らないことが多いです(笑)。しかし日本人として自分の国のことをもっと語れるようになりたいと思います。私は音楽を通して、日本の誇るべき文化に触れていただける機会になればと、この活動を行っています。

相原 大切なことですね。文化財も自分たちが責任を持って保存し、次へつないでいくことが必要です。

歌枕 今回は、三嶋大社での静岡県文化財保存協会で演奏させて頂き、大変光栄に思っております。

相原 自然でやわらかな歌声と、上代の美しい詞(ことば)に涙し、いっぺんにファンになりました。

歌枕 ありがとうございます。また、旅館に泊めて頂き、意義深い日本の風情のあるお話しをありがとうございました。

相原 郁子 (あいはら いくこ)

有限会社 新井旅館 代表取締役。

特定非営利活動法人 靫彦・沐芳会 理事長。静岡県文化保存協会 理事。

昭和43年成城大学国文科卒「万葉集」中西進むゼミ専攻。卒論は「万葉集の四季」。結婚後日本の美しい歴史文化を守る為活動。「あらゐ大観ギャラリー」主催。「歴史的建造物所有者の会」副会長「歴史文化のまちづくり」関係のシンポジウム主催、出演等々。「国際ソロプチミスト駿河」会員