歌枕直美 友の会

うたまくら草子
歌枕直美の心から語りたい vol.29 田中博美

東京大学の田中博美先生に、日本文化についてお話しをお伺いしました。


■禅との出会い

歌枕直美(以下歌枕) 禅の研究の第一人者でおられる田中先生ですが、どういうきっかけでその道を目指されたのでしょうか。

田中博美(以下田中) 一番最初はお茶からなんですね。子供の頃お茶をやっているうちに、大人が禅の話をし始めるのですが、それがわからないので悔しい。それで禅を知りたいと思ったわけです。

歌枕 環境って、凄いものですね。

田中 あともう一つのきっかけがあるんですよ。高校時代の先生の一言なんです。「五山は難しすぎてやれる人がいない。」じゃあ僕がやります!って(笑)。

歌枕 人のやらないことをやりたいということですね。私はその五山も知りません(笑)。

田中 五山とは、鎌倉・室町時代に幕府が経済的な援助と統制を行い公認した、トップクラスの禅宗寺院のことです。そして、その五山の史料がほぼ集まっているのが今勤めている史料編纂所なんです。
■直感すなわち…

歌枕 ところで先生は音楽にも造詣が深くいらっしゃって、古楽器も弾いておられたのですね。

田中 最初はオルガン、そしてチェンバロを弾くようになりました。チェンバロは「創る」という意識がないと音を出せないですよね。心が固まっていれば出したい音が出る。

歌枕 私共で新生させたピアノ、タローネ(注)は、そこに通じるわけですね。

田中 そうです。タローネは自分で作ろうと思う音を、内面コントロールが出来るとそれを出してくれる。そんなピアノに驚いたんです。タローネは自分にいろいろ教えてくれる楽器だと思いました。

歌枕 タローネの様な楽器は、縁ある人にしか届かないと思っていて先生のような方にお届けできることを喜んでいます。それにしても良く購入を決断してくださいました。

田中 直感ですね。誰の中にもあり、眠っていた感覚を呼び覚ます、しっかり知っているのに表現を知らないというものが直感ですよね。禅も読むものではなく悟るものなのですが、例えば口をふさがれた状態で「あれが欲しい!」と「これなんだよ」と人に伝えられることは直感だと思います。そしてそれを言えた瞬間が悟り。

歌枕 ということは悟られたということでしょうか。(笑)

田中 そういうことですね。(笑)
■日本文化の発信

歌枕 禅は海外へ発信されているのでしょうか。

田中 残念ながらその発信を怠ってきたと思います。また、発信していたとしても、正しく伝えられたとは言いがたいのが実情です。

歌枕 では今から先生の出番ですね。

田中 そうありたいですね。歌枕さんもぜひ活動を、世界で繰り広げて欲しいですね。

歌枕 一緒に日本の良き精神文化を、お伝えできれば本望です。

田中 歌枕さんはいきなり聴衆の胸に飛び込む歌の歌える、日本の生んだ世界の歌姫だと思います。それはおそらく、優しさと強さ、そして音楽を通して鍛えられた直観力からくるものだと思いますよ。

歌枕 ということは、私は悟りを開いていますか(笑)。

田中 故郷の山や川と繋がっている私たちの存在を、歌声で伝えていただければと期待しています。

歌枕 私もそうありたいです。励まされるお言葉本当にありがとうございます。

(注)タローネ...1895~1982 (伊)ピアノ調律師。一生涯で約500台のピアノを製作。知られざるイタリアの名器。

田中 博美 (たなか ひろみ)

1949年東京生まれ。

東京大学卒業。

現在、東京大学史料編纂所助教授。研究テーマは禅宗を中心とした日中の文化交流。