歌枕直美 友の会
古都奈良の有形文化財の指定の老舗旅館「菊水楼」は料理旅館としても有名。その料理長を務める松浦菊美さんに、お話しをお伺いしました。
■修業時代
歌枕直美(以下歌枕):観月会の時には大変お世話になり、ありがとうございました。
松浦菊美(以下松浦):お客様も大変喜んでくださって、私も嬉しかったです。
歌枕:ところで、松浦さんは確か、岩手のご出身とお伺いした気がするのですが、あ
えて奈良・菊水楼へ来られたきっかけは何だったのでしょうか。。
松浦:とくには理由はないのですが、就職のとき、住み込みで働けるところを希望していて、イメージ的に東京は恐いところと思っていまして(笑)、奈良へは修学旅行で来たことがありましたので、こちらにお世話になりました。
歌枕:縁があったということですね。社会人生活の始めはどのようなものだったのでしょうか。
松浦:お昼は調理師学校に通わせてもらい、学校から帰ったら店の外周りの掃除や食器運びで、3年ぐらいは調理場へ入れてもらえませんでした。また、社長には住み込みで面倒を見ていただき、いろいろなことを厳しく教えていただきました。
歌枕:修行時代ですね。厳しさを受け止めることができる素直な心が大切で、重要な才能の1つなんだと思います。でもその厳しさに対する反発したりはなかったのですか。
松浦:私は反発もなく「そうなんだ」と思うことができました。友達は仕事がきついからと続かなかったですね。今日「よろしくお願いします。」と入って来て次の日の朝いないという方もありましたね。
歌枕:気持ちがわからないでもないですが…。(笑)何年か経って、やはり他の道がよかったと思われたことはありませんでしたか。
松浦:それは無かったですね。ただ一度思ったのは大きなミスをして、もう店には居られない、田舎に帰るしかないと思いました。店を出たのですが興福寺を1周して気がついたら店に帰ってきてました。(笑)
歌枕:天職なのですね。止められないということは。(笑)松浦さんは本当に現場からのたたきあげですね。料理長になられてどれくらいになられますか。
松浦:まだ3~4年です。年回りで回ってきたんですよ。ですからその時はなんとも思わなかったのですが、最近になって責任を感じてきました。料理長になると、経営のこと含めすべてを考えなければいけません。
歌枕:現場とのチームワークが、大変なご苦労だと思いますが、いかがでしょうか。
松浦:自分の気が集中し盛り上がっている時には、周りも付いてきてくれます。
歌枕:やはり集中力がものをいうわけですね。
松浦:はい。10年経って、上下関係だからというだけではなくて、良かったと思えるかどうかが重要だと思います。
■気配りのすすめ
歌枕:通していただいたお部屋に、さりげなく床の間に活けられた一輪の椿が美しいですね。
松浦:ありがとうございます。私が活けました。座敷の花も自分で生けることが多いです。お花の先生の生ける花と、調理人の生ける花は違いますね。その竹の花器も私の手作りなんですよ。この竹箸も、私が竹取に行って、調理場で削って作っています。
歌枕:“竹取”なんて考えたこともありませんでした。(笑)あと、気をつけておられることはありますか。
松浦:お座敷に顔を出し、お客様のお話をお伺いします。このお客様は何を待っていて下さってるかな?何かを求めてきてくださっているか、どんな方かでメニューも変われば、器も変わります。
歌枕:その場に合わせた演出は、できそうでできないと思います。これだけの大きいお店がそこまで配慮されているなんて素晴らしいですね。
松浦:やはり、若いときに店の外回りをしていたことが、今になってとても良かったと思っています。
■正直な料理
歌枕:松浦さんの料理には一本筋が通った勢いがありますね。お料理を最初に頂いたときに、その力にびっくりしました。心がけているのはどういうことでしょうか。
松浦:正直に作るということでしょうか。お座敷のお客様のところへ出たときに、嘘があったら出られませんからね。
歌枕:なるほど!お料理も音楽も、裸の自分が映し出されます。だから、恐い!(笑)
松浦:はい。真面目にいかないとけないと思います。(笑)
歌枕:観月会のコンサートの時にも、お部屋の飾り、お庭の演出まで、松浦さんが自ら行ってくださったとお伺いし、感動しました。
松浦:歌枕さんのCDを聴かせていただいて、自分との周波数があってたかなと思いました。音楽を聴いているといろいろ浮かんで、外では百目ろうそくやススキ、そして三笠の山から登る群雲の月。室内では、生ける花も買ったものではなくて自然の花にしました。究極、ススキだけでも良いと思いました。
歌枕:音楽からイメージしていただけてとても嬉しいです。とても調和した素敵な演出を、ありがとうございました。
松浦:お庭でも演奏して頂いて良かったですね。歌枕さんが歌われているとき、後ろにお月様が一瞬見え、ご覧になった方が手を合わせていらっしゃいました。そのことが心に残っています。
歌枕:そのお話しは、私にとっても、大きな喜びです。
松浦:どの料理がおいしかったと言われるのも嬉しいけれど、いろいろなことがあいまって良かったと思ってもらえる心が嬉しいです。
歌枕:全く同意見で、私もどの歌がよかったと言われるより、先程のお話しのように、お月様に心をよせてもらえるような時間を生み出せることに参画できることがありがたいです。
松浦:そうですね。私は終わって、次はこうしたい、あのようにしたい、というのが浮かびましたよ。
歌枕:ぜひ、またご一緒にさせてください。食と音楽、それに歴史、この場ならではの企画が発信できるといいですね。本日は、素晴らしいお料理と正直なお話しをありがとうございました。(笑)
松浦 菊美(まつうら きくみ) | 岩手県出身。 高校卒業後、奈良の調理師学校に入学。同時に(株)菊水楼に入社。 現在、料理長を務める。 |
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