歌枕直美 友の会

うたまくら草子
歌枕直美の心から語りたい
vol.33 辻村 泰善

今から約1400年前、飛鳥時代に作られた瓦や柱が残されている奈良・元興寺(世界文化遺産)の辻村ご住職に、お話しをお伺いしました。

■復興・再建への道
 
歌枕直美(以下歌枕):元興寺での公演は、大変お客様にも好評で、昨年に引き続き、今年もお世話になります。ところで、ご住職のお父様が、元興寺の復興・再建をなされたそうですが、その期間はどのくらいかかったのですか。
 
辻村泰善(以下辻村):復興再建の工事は、昭和18年から昭和51年ですから、約30年でしょうか。その中で、でてきたものは約10万点のものがありました。それを研究所で調べて、そうしてやっと、収蔵庫で一般の方に見て頂けるようになりました。
 
歌枕:大変な数ですね。以前から気になっていたのですが、その研究所とは、お寺の敷地内にあるところですか。
 
辻村:はい。元興寺文化財研究所で、私が理事長を務めております。
 
歌枕:ご住職は、文化財などの研究がご専門なのでしょうか。
 
辻村:大学で仏教美術を学び、卒業後1年間は、奈良国立博物館の研修生として入り、実際の展示や梱包・パンフレット作成から研究まで近くで見て学びました。また研究所では、全国の調査や修理をさせてもらえるようになりました。
 
歌枕:その技術の高さはどのようにして培われたのですか。
 
辻村:それは再建時の調査研究の積み重ねですね。昭和51年ぐらいになって、やっとこれでやっていけそうだということがわかり、財団法人となり、民間ではここが日本初で、普通のお寺ではありえないことです。今は文化庁の管轄となっています。戦後30年経って、やっと関心も高まってきました。
 
歌枕:ならまち全体としても振興されてきていますが、お寺はどのような役目を担っているのですか。
 
辻村:ならまちの振興はどうするか、市民運動となってきたころ、お寺の復興工事も終わったこともあり、お寺が歴史上古くからあるわけで、町づくりや町との関係を考えなければならなくなりました。行事や音楽会など、人々が集まることを行い、開放されているお寺と言われるようになりました。
 
■信憑性について
 
歌枕:元興寺が世界文化遺産に登録されたのは、いつのことだったでしょうか。
 
辻村:奈良市市政100年にあわせ、平成10年世界文化遺産に登録されました。
 
歌枕:素晴らしいことですね。たくさんの中で、何故、元興寺が登録されたのでしょうか。
 
辻村:世界遺産に登録されるには、信憑性がなければいけない。はっきりしていないといけないのです。合理的に見たところの信憑性が必要で、例えば、何%当時の木が残っているのか、本数とか合理的に証明する必要がありますので、登録の出来ないところなどもありましたが、元興寺は全ての条件がすでに整っていたんです。
 
歌枕:再建の時の調査技術の成果なんですね。世界文化遺産に登録されたことで、何かプラスになったことはありますか。
 
辻村:皆さんへの伝わり方が変わりましたね。それまで元興寺というのはないものとされていましたから、世界文化遺産になったことで、本当にあったということが認知されました。そして、観光などで訪れる方が増えました。
 
歌枕:不思議なものですね。日本で認められなかったものが、世界で認められると評価が変わる。ほかの分野でも同じですね。
 
辻村:そうですね。日本の細やかさをやっとヨーロッパがわかってきていると思います。
 
■“気づき”と“試行錯誤”
 
歌枕:私は縁って凄いなと思うのですが、ある芸術家の方に私の世界は、元興寺が似合うといわれて、どういう意味だろうと思っていました。そして、昨年奈良での公演会場を探しているときに、また別の方から、元興寺をご推薦頂きました。
 
辻村:それは大変なご縁ですね。
 
歌枕:はい。歴史ある信仰の場に似合うと言って頂いて、光栄に思っております。
 
辻村:共通する部分があるのでしょうね。学問や信仰も高いところまでたどり着けば、すべてをわかってくるのでしょうが、それまでの修行は気づきと試行錯誤の中で繰り返していくしかないですし、気づきと行き来するのが大切だと思います。演劇や歌をされる方も、同じ精神ではないかと思います。
 
歌枕:元興寺においてのコンサートは、普通のコンサートとは意味合いが違います。昨年の公演の時に、リハーサルをしていますと、門の外で待っていてくださったお客様に本堂の中で歌っている私の声がクリアに聞こえたそうです。そんな不思議な経験をしました。自分のちからではない、そういう瞬間があります。
 
辻村:本来あの場所が、歌枕さんの音楽にあっているのかもしれませんね。「極楽往生院」で、何かを一心に思う、たえなる音楽を聴くことで、極楽を知る。
 
歌枕:ありがとうございます。また、今回のお話「白村江」は、この元興寺と同じ時代のお話しで、蘇我氏の暗殺、大化改新がでてきます。
 
辻村:ここ元興寺は、蘇我馬子が飛鳥に建てた法興寺を移した寺という歴史がありますが、私は蘇我氏ではないので大丈夫ですよ(笑)
 
歌枕:ちょっと気になっていたので、ホッとしました。(笑)今回も良い公演になるよう、私たち出演者、スタッフも準備を進めております。どうぞ宜しくお願いします。
 
辻村:楽しみにしております。歌枕さんの音楽には、クラシックでもポピュラーでもない、そしてきれいだけどきれいだけでない、魂に訴えるような歌だと思います。そしてもっと広まっていって欲しいと思います。そして寺も同じですが、ぜひ若い人達にもこの日本古代ロマンの世界を知ってもらいたいですね。
 
歌枕:はい。次の世代の人たちにも伝えていきたいです。本日はどうもありがとうございました。
 
 

辻村 泰善(つじむらたいぜん)

昭和27年 奈良生まれ

昭和42年 元興寺辻村泰圓僧正の従弟として得度

昭和51年 関西学院大学文学部美学科卒業

昭和52年 奈良国立博物館学芸課研修生修了

昭和56年 真言律宗大乗滝寺住職

昭和61年 真言律宗元興寺住職

平成3年 (財)元興寺文化財研究所理事長就任

現在、真言律宗元興寺住職、(財)元興寺文化財研究所理事長、社会福祉法人宝山寺福祉事業団評議員、(財)ならまち振興財団理事、種智院大学非常勤講師、独立行政法人国立博物館運営委員、真言律宗教学部長