歌枕直美 友の会

うたまくら草子
歌枕直美の心から語りたい
vol.38 石橋恒彦

江戸時代後期に建てられた庄屋屋敷、愛称「浜屋敷」を管理運営するNPO法人「吹田歴史文化まちづくり協会」理事長の石橋恒彦さんにお話しをお伺いしました。

■ゆとり教育?

歌枕直美(以下歌枕):先日は、「浜屋敷」五周年記念式典の「みやびうたコンサート」にお声を掛けていただき有難うございました。

石橋恒彦(以下石橋):歌枕さんには一周年の時に出演していただいておりましたし、今回も市長を始め式典参加者の皆さんから、歌もトークも、そして衣装も本当に良かったと大好評でした。企画した私としても面目が立ちまして、お礼を申し上げたいと思います。

歌枕:ありがとうございます。記念の日にお招きくださり光栄です。ところで石橋さんはずっと吹田にお住まいなのですか。

石橋:この「浜屋敷」の近所に代々住んでおります。ただ現役時代は転勤であちこち行きましたが・・・。

歌枕:昭和3年のお生まれとお聞きしましたが、学生時代・現役時代はいかがでした。

石橋:茨木中学(現在の茨木高校)入学が昭和16年、この年の12月が日米開戦です。旧制高知高等学校を経て、京都大学法学部(旧制)卒業が昭和28年、住友銀行に入りました。学生時代は勤労動員(軍需工場)、終戦後はアルバイト漬けで勉強は今ひとつでした。 

歌枕:実社会はいかがでした。

石橋:昭和30・40・50年代の高度成長期は「働け・働け」の時代、子供の教育は家内任せ、僕は3人の子供の入学式も卒業式も出たことがありません。世の中が豊かになって、平成に入ってからは様変わりですね。幼稚園から大学まで両親が付き添う、子供にあまい、自分の子にまで変な敬語を使う、学校でも優劣をはっきりさせない。一番判らないのは、「ゆとり教育」や小学校からの「英語教育」を声高に言う一方、「実生活でのしつけ」「人に迷惑を掛けない」「父母や先生を敬う」といった最小限のモラルをきちんと教えない。先生も父兄に気を使う。こんな風潮が、最近の若者の犯罪を生んでいるのではないでしょうか。老人の繰り言かもしれませんが・・・

■旧吹田村

歌枕:このあたりは吹田市でも古い地区ですね。

石橋:そうです。JR以南から神崎川までがほぼ旧吹田村で、「浜屋敷」の北側、高浜神社の前に村役場・町役場があったんです。昭和15年(1940年)に周辺の岸部・豊津・千里の村々と合併して吹田市が誕生しました。

歌枕:亀岡街道・吹田街道など石の道標があり、古い町並みが残っていていいですね。

石橋:古いしきたりでは、「伊勢講」(我々は「垣内(カイチ)」と呼んでいます)が続いています。16~17軒が一グループで毎月積み立て、当番がお伊勢参りをして「お札」を貰って来るんです。元禄の頃から続いています。葬儀の互助組織でもあります。だんだん少なくなって今では2~3の「講」が残っているだけですが。

歌枕:「伊勢講」が残っているとは、びっくりしました。

石橋:京・大坂をつなぐ水運の要衝、また亀岡街道・吹田街道など幹線道路に面して、農村とは言え在郷町として裕福な村だったようです。吹田村は、柘植氏・竹中氏の両旗本の領地と、仙洞御所の領地の「三方」に分かれていました。「浜屋敷」の当主は柘植氏領の庄屋役の家柄でした。

歌枕:「だんじり」もありますね。

石橋:吹田村の二つの神社(高浜神社と泉殿宮)の祭りに氏子が曳行しました。いまでは「吹田祭り」の時に見られます。地域の文化財として七台が地元の自治会で大切に保管されています。いずれも天保~嘉永年間(1830~1854年)の製作です。

■公設民営

歌枕:「浜屋敷」が、民間のボランティア団体「NPO法人 吹田歴史文化まちづくり協会」で運営されているというのが凄いと思います。

石橋:市の施設(敷地830坪、建物160坪)の管理運営を民間の団体に任せたのは、吹田市では始めてのケースではないでしょうか。阪口市長の決断だと思います。正会員(年会費3000円)、賛助会員(個人1000円、法人10000円)が母体で、正会員から理事・監事・評議員が選出されます。役員はすべて無給、有給なのは事務局員のみで、市から人件費が出ています。
特に強調したいのは、役員以外の「登録ボランティア」約90人の存在です。毎朝の清掃・花の手入れ・喫茶コーナー・イベントサポート・大工仕事・撮影・交通整理・園児児童行事担当などなど、ことあるごとに駆けつけてくださる皆さんの存在です。他府県の団体から運営管理の手法を勉強に来られて、びっくりされるのはこの点ですね。

歌枕:素晴らしいことですね。ところで年間どれくらいイベントをされるんですか。

石橋:市の委託行事と協会独自の行事を併せて年間70~80件、空いている日は貸室として一般市民に使って貰っています。心がけているのは、コミセンや公民館或いはメイシアターとは、一味違う古民家「浜屋敷」にふさわしいイベントをやりたい・・・。これがなかなか難しくて毎年の悩みです。

歌枕:先日久しぶりにお伺いした時、庭にある木や草花・建物など、すべてのものが息を吹き返しているように感じました。

石橋:そうおっしゃっていただいて嬉しいです。それよりも、僕は歌枕さんの活動を拝見していて、昨年のポーランドでの公演もそうですが、民間外交として重要な役割を果たされていると思います。しかも外務省や文化庁の助成もなく徒手空拳で頑張っておられる姿に頭が下がる想いです。これからも頑張ってください。

歌枕:はい。自分のできることを続けていきます。本日は、貴重なお話をありがとうございました。

石橋恒彦(いしばしつねひこ)

昭和3年10月28日生

昭和28年3月 旧制京都大学法学部 卒業

昭和28年4月~昭和53年2月 住友銀行 勤務

昭和53年2月~平成7年3月 日本アルミニウム工業(株)勤務

平成7年5月 NALC 吹田支部(会員互助・時間預託の全国組織)設立に参加

平成11年5月~平成13年5月 NALC吹田友遊悠代表

平成11年1月~平成13年5月 済生会病院跡地対策委員会 委員長

平成13年5月~平成14年11月 南町自治会館建設委員会 委員長

平成15年2月 吹田歴史文化まちづくり協会 理事長

 ・・・現在に至る

吹田歴史文化まちづくりセンター(愛称:浜屋敷)を管理運営する民間団体

江戸時代後期に建築された古民家を再生し、その特性を生かす事によって歴史と文化を保存し、文化活動の振興と交流の場となって地域の発展に資することを目指しています.

吹田の歴史を伝承するとともに、市民の歴史、文化活動振興を図り、個性豊かな地域文化を創造し、ひいては歴史、文化のまちづくりに寄与することを目的に平成15年2月に設立して以来、お蔭様で早や六年を迎えました。