歌枕直美 友の会

うたまくら草子
歌枕直美の心から語りたい
vol.41 藤嶽彰英

旅・温泉のライターで、大阪・吹田垂水神社の前にお住まいの、藤嶽彰英氏にお話しをお伺いしました。

■萌え出づる春

歌枕直美(以下歌枕):今日はお忙しいところ茶論にお越し頂いてありがとうございます。

藤嶽彰英(以下藤嶽):ここうたまくら茶論は、ヨーロッパのようですね。

歌枕:ありがとうございます。20年以上前ウィーンへ行った時に、小さなお店に音楽があって、語らいがあって、みんながひとつになって歌いだすということに感動して、いつかこのようなところを作りたいと夢見ていました。

藤嶽:いいですね。そういう風に生活の中に音楽がさりげなく入っていて、演奏はそれでちゃんとしていて。でも日本では、なかなかみんなが一緒に歌える歌がありませんね。

歌枕:はい、そうですね。このうたまくら茶論では、万葉集の歌「萌え出づる春」を一緒に歌っています。

藤嶽:山本能楽堂でのコンサートでも、皆さんで「萌え出づる春」を歌われていましたね。

歌枕:コンサートの時には、いつも吹田の垂水の歌としてご紹介しています。

藤嶽:素晴らしいですね。歌枕さんの声は美しくて、包み込むようで、イマジネーションを膨らませて、どこまでもどこまでも消えないような、そんな風に感じました。

歌枕:ありがとうございます。

藤嶽:アンコールの「萌え出づる春」の最後に「ブラボー」と叫びたかったのですが、みなさんが上品だったのでできませんでした(笑)

歌枕:声をかけてもらえると嬉しいものなので、次回よろしくお願いします。

藤嶽:客席から「歌枕さん!」と声をかけると、なんだか糸でむすばれるような気がします。感動、感激を表現したかったです。

■日本人の原風景

歌枕:ところで、ジャーナリストの道へ進もうと思われたのは、どういうきっかけだったのでしょうか。

藤嶽:もともと実家は三重県いなべ市の寺なんです。大学生時代、伊勢新聞に小説を投稿したら、1等になって1ヶ月の連載になりました。それで、書いて食べていける気がしました。(笑)でもそんなわけにはいきませんね。

歌枕:執筆のお仕事で食べていくのは、大変なことだと思います。

藤嶽:それで、はじめは津市で丁稚奉公していたのですが、やっぱり書くことをしたいと4ヶ月で飛び出して、ちょうどその頃、読売新聞が大阪に出てきたところで、受けたら通りました。

歌枕:幸運ですね!

藤嶽:新聞社に入って、いろんなことをして、旅のことを書いたら、自分の人生観も書くことができて、自分にとってこれが良いのではないかと納得しました。

歌枕:自分の道を見つけられたのですね。

藤嶽:はい。上司に良い部長がおられて、日本人の原風景というべき「旅」の連載しました。毎週1ページで、800回書かせていただきました。自分で歩いて確かめて、無我夢中で頑張りました。

歌枕:その読売新聞をおやめになって、フリーになられたのは、どういう流れだったのでしょうか。

藤嶽:年を経て、現場記者からデスクへと昇進するのですが、僕は旅が好きだから、人の原稿をチェックするデスクの仕事をするのではなく、現場の記者としていき続けたいと思いました。

■地からの恵み

歌枕:旅行ペンクラブは、藤嶽さんが立ち上げられたのですか?

藤嶽:はい。来年45周年を迎えます。新聞社より、独立する前に立ち上げました。

歌枕:歴史がありますね。旅行の魅力とはなんでしょうか。

藤嶽:「百の人生論より、一回の旅」。「若くして旅をせずば、老いて何を語らん。」です。今のパック旅行と違って、トラベル。トラベルには、骨を折る、苦労をするという意味があるんですよ。その中で、人間としての深みがでてくると思います。旅は、到着地点ではなくて、そのプロセスが大事だと思います。

歌枕:深いですね。旅と言えば万葉時代にも、潮を待ったり、家族と別れての旅、今では考えられない旅の想いが詠まれています。また藤嶽さんは、温泉のライターをされていらっしゃるとお伺いしましたが?

藤嶽:僕は温泉が好きで、3500~4000あるうちの、9割には行っております。人工的に掘ったところはいっぱいありますが、無理やり掘ったところはいずれ枯渇します。

歌枕:その意味が良くわかります。温泉は地の恵ですよね。一度、藤嶽さんにぜひ聴いていただきたい曲があります。「伊予の誘庭」という歌は、温泉について詠んでいます。

藤嶽:昔の人も感じているのですね。

歌枕:はい。この歌を通して、地からの恵を、経験していないけれどわかりました。

藤嶽:温泉も生き物なんです。よく効能とか言いますが、万能ではないんです。行った方が「行ってみたら嘘はない。書かれているよりちょっとええなぁ~」と思っていただけるようにね。一般的にはオーバーに紹介されがちなんですが、少し抑えて書いています。(笑)

歌枕:確かにそうですね。(笑)

藤嶽:僕の夢があります。垂水神社の宮司さんにもお話をしていたのですが、毎年、歌枕さんに来てもらって、神社で「さ蕨祭り」をやったらよいのにと思っています。よそにはないものをやったら、ひとつの文化になりますから。

歌枕:垂水が、文化発信地になればいいですね。

藤嶽:また日本は不況も含めて、良い方向へ向かっていると思います。僕は、これから歌枕さんの時代が来ると思いますよ。

歌枕:その言葉を励みに、活動を続けていきます。今日は、貴重なお話をお伺いしましてありがとうございました。


藤嶽 彰英 (ふじたけ しょうえい)

読売新聞記者として20年、毎週1頁の紀行文を約800回連載、「11PM」「遠くへ行きたい」NHKラジオ深夜便で「廃村への旅」など語る。

日本の温泉は95%に入り、世界40数カ国を旅する。

独立後、1980年度大阪府文化芸術功労賞を受賞。名付けた温泉も全国に16カ所ある。

著書は「秘湯の旅」「旅のこころ」など63冊。

現在旅行ペンクラブ名誉会長・温泉学会顧問・「小宿の会」塾長。

旅行ペンクラブとは

1965年創設された「旅」に関わる情報を発信するメディア関係者の団体です。主に、放送関係者、旅行作家、エッセイスト、ライター、ジャーナリストなどで構成されています。旅行に関する情報発信のほか、自治体や地域と協力して、観光振興のための調査研究、企画、アドバイザリーボードといった活動を通じ、観光地、旅行全般の発展に寄与しています。