歌枕直美 友の会
奈良の都の大宮人が「佐保」で集宴した伝承を今に語り続く芸術・文芸サロン 佐保山茶論の代表の岡本昭彦さんに、お話しをお伺いしました。
■佐保山
歌枕直美(以下歌枕):2月には佐保山茶論でのコンサートを開催していただき、ありがとうございました。
岡本昭彦(以下岡本):魂が振られる感動をいただきました。このあたりは、大伴家持、お父さんの旅人、叔母の坂上郎女など大伴氏の邸宅があったところで、またそれに合わせたプログラムを組んでいただいてありがとうございました。皆さん「感動した」と言ってくださいました。
歌枕:アンコールの「船出の歌」の時に、「待ってました!」と、声をかけていただいて嬉しかったです。(笑)
ところで岡本家は、代々「佐保」にお住まいなのでしょうか。
岡本:はい。私の祖父が村のまとめごとをやっていました。田畑を管理するために、家に男衆がいて子供の世話もしてくれました。(笑)
歌枕:佐保で育たれて、この土地はお好きでしたか?
岡本:はい。祖父と佐保川に魚を捕りに行ったり、佐保山にかぶと虫を捕りに行ったり、自然がたくさんありました。また、佐保小学校からは、SLD51が走っているのが見えました。そして、祖父の時代は、山に柏餅の葉を取りに行ったり、趣味で養蜂を採ったりもしていたので、その話を聞くのが楽しかったです。
歌枕:お祖父様の影響を受けられて、育たれたのですね。今では、なかなかない環境ですね。
岡本:そうですね。母の時代ですと、大家族への変化があったり、皆が消費生活者となっていきましたからね。自分の知らない昔のことを知っている祖父がめずらしく興味がありました。
■家持への共感
歌枕:お父様は、何をなされていたのですか?
岡本:父は、天理北中学、桜井高校、畝傍高校と万葉ゆかりの地の学校の教員をし、家持の研究をしていました。そして、歌枕さんもご縁のある大神神社を信仰し、いつもお参りしていました。
歌枕:今の岡本さんの活動は、お父様の影響を受け続いていらっしゃるんですね。
岡本:子供の頃は、父は父、自分は自分と思っていて、父とは逆のタイプでしたので、親と違う道をいきたいと思っていました。
歌枕:その岡本さんが、今、佐保山茶論を立ち上げられるまでには、どういう転機があられたのでしょうか。
岡本:大学は経済学部に行き、奈良県農業協同組合中央会に就職し、その後、特定郵便局の局長をし、人間関係の難しさやいろいろな思いを経験して49歳で退職しました。その頃、父が能梗塞で倒れたこともありました。そして、家持の本を読んでみると、家持自身も人間関係の中で悩んでいることとか、苦しんでいることとわかり、その気持ちが自分の思いと重なりました。
歌枕:万葉歌人や万葉集からではなく、家持の生き方から入らたんですね。他の方と違う視点で見ていらっしゃり、すばらしいことだと思います。
岡本:はい。家持は、宮人として、私は組織人として生きていました。大伴家の衰退、自分の家の相続・・・。自分の人生と重ね合わせ、そして家持の関連から見ていくと、万葉集が見えてきました。万葉集は、敗者の側面もある文学だと思います。
■芸術・文芸・茶論
歌枕:「佐保山茶論」をはじめられたきっかけは何でしょうか。
岡本:奈良県農業組合中央会に勤めているとき、上司の吉岡秀一さんと男二人でアイスクリームを食べながら、奈良時代から近代までの歴史談義をしていました。(笑)その吉岡さんが、「なら文化創研21食と文化」を立ち上げられ、その催しにこの場所を使いたいとのお申し出があり、その時に佐保の説明をしないといけないと思ったことがきっかけとなり、佐保山茶論をスタートしました。
歌枕:吉岡さんとは、運命の出会いですね。
岡本:そうですね。歌枕さんとの出会いも不思議ですね。知人から歌枕さんのお話しを聞き、ネットで検索してみると同じ“茶論”で芸術サロンをなさっているのにご縁を感じ、すぐにお電話をしました。
歌枕:ありがとうございます。佐保山茶論では、多くの催しをされていますが、どのようなことを目標とされていますか。
岡本:芸術・文芸サロンとして、年4回くらい催しを行っていこうと思っています。自分自身がクラシック音楽が好きなので、このスペースでは、ゆったりとリュートなど古楽を聴いていただくのが似合うと思います。また、この佐保で大伴家持の紹介をしていき、今まで大伴家持や万葉集を知らなかった人に、伝えていきたいと思っています。
歌枕:知らない人、興味のない人に知るきっかけづくりをしていくことは重要な仕事だと思います。今、こうして万葉集が残っているのも、その時代、時代で、語り継ぎ残して来た人がいるからだと思います。
岡本:佐保は万葉を語るにふさわしい所です。佐保は、大伴氏を中心とした万葉のメッカであり、万葉の源郷は明日香だと思います。
歌枕:岡本さんの今後の目標はなんでしょうか。
岡本:この佐保の地が、大伴氏をはじめ貴族の宴・文化茶論の場所であったように、芸術作品として練り上げたものをここでやっていきたいと思っています。佐保を万葉集の故郷として大事にし、小さくても、歴史を感じる場所だから人が集まるところにしていきたいです。
歌枕:ここはこの地にある感じる空気がある特別なところだと思います。岡本さんは生涯かけて、佐保茶論を行っていかれるのですね。
岡本:ありがとうございます。そして、もう一つの目標は、佐保小学校の教育の中に、万葉集を歌うことを取り入れてほしいと思っています。歌枕さんにも、ぜひご協力いただきたいです。
歌枕:すばらしいですね。子供の時に、意味がわからなくてもその土地の、日本の文化に触れていくことは、将来何かの形で残っていくと思います。ぜひ、協力させていただきたいです。今日は、貴重なお話しをありがとうございました。これからもよろしくお願いします。
岡本 昭彦 (おかもと あきひこ) | 昭和33年 奈良県生まれ 大阪市立大学経済学部卒 奈良県農業協同組合中央会勤務 奈良青山郵便局を開局し、奈良青山郵便局長を拝命 奈良青山郵便局を退職し、現在、佐保山茶論(芸術・文芸サロン)を主宰 |
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