歌枕直美 友の会

うたまくら草子
歌枕直美の心から語りたい
vol.48 塚本桂子

和歌劇のナレーションのポーランド語訳の校正などでお世話になっている、塚本桂子先生にお話しをお伺いしました。


■この世の春
  ・ポーランド
 
歌枕直美(以下歌枕):いつも和歌劇のポーランド語訳にてお世話になり、ありがとうございます。2010年のポーランド公演も無事に終えることができました。
 
塚本桂子(以下塚本):お疲れさまでした。お役に立てて嬉しいです。
 
歌枕:塚本先生は、現在、大阪大学でポーランド語を教えられていらっしゃるのでしょうか。
 
塚本:はい。10年前からポーランド語も教えるようになりました。それまではロシア語の通訳や翻訳、指導をしてきました。
 
歌枕:どうして難しい言葉と思われるロシア語、ポーランド語を勉強なさることになったのでしょうか。
 
塚本:もともと英語には興味がありましたが、私は、へんこな性格で、人がするものは嫌だったんですね。ですので、英語圏以外で大国というと、ソビエトでロシア語だったわけです。(笑)その頃は、身近に可能性があるものより、とにかく未知のものに憧れてました。
 
歌枕:まずロシア語を学ばれ、その後ポーランド語を学ばれたきっかけは何だったのでしょうか。
 
塚本:毎日、遠くへ行きたいと考えていたところに、大学でポーランド留学の案内がでていました。ロシア語で試験を受けて合格しました。
 
歌枕:大変な努力だったと思いますが。
 
塚本:好きなことは努力といいませんから、遊びでやってる気分で合格しました。2年間費用がもらえて、そして世界に羽ばたくという思いで、不安も感じませんでした。
 
歌枕:その当時の東ヨーロッパへ行かれるのに、ご両親は、心配なされませんでしょうか?
 
塚本:社会主義の国へ行って、どうなるかわからない、もう二度と逢えないかも知れないと言って、特に父が反対していました。
 
歌枕:そのお気持ちも当然のことと思いますが、実際にポーランドへ行かれていかがでしたか?
 
塚本:はじめはポーランド語がまったくわからなくて大変でした。ロシア語で大丈夫と聞いていたのですが、ポーランド人はロシアに嫌悪があり、ロシア語を使うと嫌がられるので、はじめは英語で話していました。その内に、ロシア語とポーランド語は同じスラブ語がもとで言語体系が似ていることに気がつき、3ヶ月くらいで授業がわかるようになりました。
 
歌枕:やっぱり筋がいいのでしょうか。(笑)そしてどんな留学生活を送られたのでしょうか。
 
塚本:授業に出るより、舞台や映画を見たり、旅行をしたりしました。ゼミの先生が研究のためとして、ビザ取得に便宜を図って下さったので、奨学金で自由にいろんな国へ旅行をして、多くの経験をさせていただきました。ポーランドには「この世の春」を過ごさせてもらったわけです。
 
■命を削る仕事
 
歌枕:ところで、ポーランド語の辞書の著者の中のお1人とお伺いしましたが、どういうきかっけだったのでしょうか?
 
塚本:ポーランドで知り合った先生に声をかけていただき参加しました。細かくて、大変な仕事で、私には合わなくてぜったい嫌な仕事だったのですが、必要な物なので、終わるまで我慢しようと頑張りました。
 
歌枕:一世一代の大仕事ですね。辞書は、使う立場でしかないので、作られる人のお話を聞かせていただきたかったです。
 
塚本:完成までに10年かかりましたが、本当にやってよかったです。
 
歌枕:誰でも関われる仕事ではないです。生きた証ですね。
 
塚本:中辞典、大辞典の話もありましたが、命を削る大変な仕事なので、名乗りを上げる人がありませんでしたね。私はポーランド語の入門書をつくりました。自分が、ポーランド語を学ぶならどんなものが合ったらいいかなと考えて作りました。あと、生徒が文法書がないというので、文法書も作りました。
 
歌枕:辞書、入門書、文法書を作られて、もう完璧ですね。
 
塚本:ポーランドには、恩があるので、かえさなあかん!(笑)と思っていました。それで六十歳までに完結しないと、思いやりきりました。
 
■歴史、そして未来
 
歌枕:これからの目標は何かお持ちでしょうか?
 
塚本:目標というと、今は、初級者の方にポーランド語を教えていきたいです。
 
歌枕:これだけのキャリアをお持ちの先生が、初心者を教えたいというのは、どういうことでしょうか。
 
塚本:初心者を教えるのは難しいです。すべての知識を持って、ベテランの先生が教えるべきだと思います。
 
歌枕:なるほど、わかりました。
 
塚本:単語1つをとっても、その意味を伝えるだけでなく、諸説をもって教える、それは知識がないと教えれません。初級になればなるほど、知識がある人が教えた方が良いと思います。入り口というのは大切、好きになるのも、嫌いになるのも、はじめが肝心ですね。
 
歌枕:どの世界にも共通することですね。
 
塚本:そして今、原点を振り返り、今までは、未来ばかりを見ていたので、歴史に目を向けています。未来を考えるには、歴史が必要です。歌枕さんは、そのところに視点をあてて、時代に迎合せず独自の道を歩んでられます。素晴らしいです。
 
歌枕:ありがとうございます。独自の道を歩いていることは、道が違えど、先生と共通点がある気がします。本日は、愉快な、そして元気になるお話しをありがとうございました。ポーランドとはたくさんのご縁ができました。これからもよろしくお願い致します。
 
 

塚本 桂子 (つかもと けいこ)

1974年神戸市外国語大学大学院修士課程修了。

1971-1973ポーランド・ワルシャワ大学留学。現在、大阪大学、神戸市外国語大学非常勤講師。

著書:ポーランド語辞典[白水社](共著)ポーランド語で話しましょう[ふくろう出版]よくわかるポーランド語文法[南雲堂フェニックス]