歌枕直美 友の会

うたまくら草子
歌枕直美の心から語りたい
vol.51 東保光彦

今年11月の海外公演で訪問する予定のポーランド日本情報工科大学の東保光彦先生が一時帰国中に、お話をお伺いいたしました。

■ポーランドから
  サモアまで
 
歌枕直美(以下歌枕):先日は、和歌劇「高山右近」公演にお越しいただきましてありがとうございました。
 
東保光彦(以下東保):こちらこそありがとうございました。大変素晴らしかったです。日本人の素晴らしさを感じることができました。歌枕さんよりワルシャワの大学へ、CDを送っていただきこのご縁ができました。人生っておもしろい、どこでつながっていくかわからないですね。
 
歌枕:本当にそうですね。東保先生がポーランドに行かれてどのくらいになりますか。
 
東保:もう、17年になりますね。
 
歌枕:外国で長く生活をされて大変ではないでしょうか。
 
東保:皆さん親切にしてくださるので、あまり外国にいる気がしないです。ポーランドは私の育った京都の山科に似ていますね。ちょっといなかで自然があって、近所のみんなが知り合いの様な感じです。(笑)
 
歌枕:ポーランドの国の魅力は何ですか?
 
東保:時間がゆったりしている、自然は豊か、いろいろありますが、やはり人、人間ですね。嫌な思いをしたことがないです。
 
歌枕:波長が合う、心が触れ合うということでしょうか。
 
東保:はい、控えめなところとか、日本人と似ているところがあります。家内がポーランド人なのですが、その両親が古き良きポーランドの典型のような人で、私はラッキーだったと思います。
 
歌枕:本当にそうですね。ポーランド以外で、住まれた国はおありですか?
 
東保:その後、JICA(独立行政法人国際協力機構)からサモア国立大学へ派遣されました。
 
歌枕:サモアですか?よく位置がわかりませんが、ポーランドとは正反対で暑い国ですね。サモアの印象はいかがでしたか?
 
東保:トンガとかタヒチと同じポリネシアの国で、パラダイスと良く言いますが、ほんと天国。ストレスゼロの国ですね。(笑)
 
歌枕:ストレスゼロの国ですか?そちらでは何を教えられましたか?
 
東保:サモアでは、学長さんのICT(情報通信技術)政策顧問をしていました。ここでは、援助してもらっている側はゆったりで、頑張っているのは日本人だけです。(笑)「また別の人生がある」と、サモアやポーランドに行ってわかりました。
 
歌枕:そういう人生を歩まれたからこそ言える言葉ですね。日本人の勤勉さ、誠実さは美徳ですね。
 
東保:日本人はやると言ったらぜったいやる、口先だけではない、サモアやポーランドでもこれに感心されましたね。
 
■ポーランド
 日本情報工科大学
 
歌枕:大学の名前に「日本」とついていますが、日本とどういうかかわりがありますでしょうか。
 
東保:日本のODA(政府開発援助)の一環として、情報の技術者を育てる大学をと一九九四年に設立されました。
 
歌枕:東保先生は、この大学の立ち上げからいらっしゃったんでしょうか。
 
東保:はい、JICA(独立行政法人国際協力機構)の派遣で1994年の2月にポーランドへ行き、10月に大学ができました。
 
歌枕:はじめから学生さんたちはいらっしゃったのですか?
 
東保:初めは学生が30名くらいで、先生も寄せ集めで、孤児院の一角を間借りして授業がはじまりました。でも、数年後には、ポーランドでトップの大学になりました。
 
歌枕:素晴らしいですね。日本の授業もありますでしょうか。
 
東保:日本の援助で生まれた大学ということもあり「日本の歴史と文化」が全学生の必修科目になっています。ワルシャワ大学の先生にご協力いただいて、四年前に日本文化学部というのができました。他の大学とはすこし違う内容をということで、「文化論」「文化人類学」「社会学」「日本学」などを学びます。
 
歌枕:東保先生は、どういう授業を教えていらっしゃるのでしょうか。
 
東保:日本文化一般ですね。私の持っている科目のひとつに「日本の有形文化財」という授業があります。その中では、学生たちがインターネットなどを使い日本について調べ、発表してもらいます。将来的には、その成果をポーランド版ウィッキペディアに載せることを考えています。うちの大学は、もともと情報大学なので必要なシステムは揃っています。また、「日本のメディアモニタリング」という授業もあり、学生に日本のテレビや新聞を見せて、その内容について討論などを行います。教師の話を聞くだけより、実際に学生自身が考え話すことが重要だと思っています。
 
歌枕:学生さんは、大学を出てその後どのような道に進まれるのでしょうか?
 
東保:日本文化学部ができて4年目で、来年夏にはじめて卒業生を出すのでまだわかりませんが、情報学部の学生は就職率100%で、メディア芸術学部の学生も在学中にコンテストに作品を出したり積極的に活動しています。
 
■能・和歌劇
 
歌枕:今、中欧で日本の芸術に興味を持たれている方が増えていると聞きましたがいかがでしょうか?
 
東保:中欧ヨーロッパでは、古典芸能がはやっていて、先日「中欧能楽文化協会」というのができ、私もその設立式に出席しました。
 
歌枕:そのような展開になっているのですね。
 
東保:ポーランドのとなりの国チェコでは「狂言」、ポーランドでは、「能」がはやっていて、ポーランドへは、喜多流能楽師で無形重要文化財の松井彬氏が来て教えてくださっています。歌枕さんの古代歌謡・和歌劇と接点があるはずだと思います。能も和歌劇のひとつで、歌枕さんの和歌劇、能、俗楽など、きっと将来どこかでつながると思います。
 
歌枕:そうですね。今、私は世阿弥にはまっています。
 
東保:私は以前、バッハとか西洋音楽が好きでしたが、歳をとってくると、日本のものに興味が出てきました。その中に何かがあると思います。学生時代に勉強した時よりも、特に海外に住み、より日本の歴史や政治に興味が出てきました。11月ワルシャワ・日本情報工科大学での歌枕さんの和歌劇「姫たちの伝言~古事記うたものがたり」公演、そして講義を大変楽しみにしております。
 
歌枕:次にお目にかかるのは、ワルシャワですね。どうぞよろしくお願いいたします。今日は貴重なお話をありがとうございました。
 
 

東保 光彦 (とうほ みつひこ)

1943年京都生まれ。

1969年立命館大学修士卒業(物理)。

1978年より京都コンピュータ学院教員。同学院白河校副校長続いて高野校副校長。同学院情報科学研究所員。

1994年JICA専門家としてポーランド日本情報工科大学プロジェクトに派遣。

2001年プロジェクト終了後現在まで同大学教授。

2002年から3年間はサモア国立大学学長顧問。