歌枕直美 友の会

うたまくら草子
歌枕直美の心から語りたい
vol.76 関塚哲心 ・近藤博道・荒木将旭

 
10数年来、浜松での公演においてお世話になっている黄檗宗 初山 宝林寺の関塚住職に対談をお願いしました所、来年開創350年遠忌を迎える京都宇治にある黄檗宗総本山萬福寺にお招きいただき、黄檗宗管長の近藤猊下、宗務総長の荒木総長にもご臨席賜り、特別対談となりました。
 

受け継いで行くこと
 
歌枕直美(以下、歌枕):5月の音絵巻「うつそみの人―細川ガラシャ」公演では、大変お世話になりました。
 
関塚哲心(以下、住職):大変素晴らしい公演でした。とても感動しました。
 
歌枕:ご住職とのご縁も10年以上になります。住職の道を選ばれたのは、どのようなきっかけでしょうか。
 
住職:母方の祖父が初山宝林寺の住職だったんです。母には弟が二人いて、本来なら跡継ぎなのですが、二人とも外に出てしまっていて、祖父が68歳で半寝たきりになり、お参りもままならない状況でした。それで当時、中学3年生だった私に、継いでみないか?と声が掛かりました。
 
歌枕:決断するのに、躊躇や迷いはなかったのですか?
 
住職:当時、ゴッドファーザーに憧れていて、その頃に祖父からの話でしたので、350年の歴史がある寺を受け継いで行くということに、とても意味を感じていました。
 
歌枕:素敵ですね。中学3年生で僧侶になることを決意されて、その後どのように進まれましたか?
 
住職:お坊さんの子供でない一般の人に、「あなたお坊さんにならない?」ってほとんどないんです。黄檗宗の僧侶の中でも珍しいですね。大学に通いながら、大本山でお世話になり、境内にある御堂に住ませていただいていました。
 
歌枕:ここ黄檗宗大本山萬福寺で、修行をされていたのですね。
 
住職:はい。18歳で入山しました。今日は、その当時からお世話になっている近藤管長猊下と荒木宗務総長がお越し下さいました。歌枕さんにご紹介できて、嬉しいです。
 
歌枕:近藤管長猊下と荒木宗務総長様にお目にかかれまして、本当に恐縮です。
 
住職:管長猊下は、当時、教学部長でおられました。同郷という事もありかわいがってくださいました。
 
近藤博道(以下、管長):和尚は、その頃は初々しく、何でも物事を吸収しようと頑張ってました。
 
荒木将旭(以下、総長):ずっと調子にのって、可愛かったですね。そして、調子に乗り続けるために、いろんな事をそこで学んで行くので、誰も文句が言えなかったですね。
 
住職:ありがとうございます。調子にのる努力、それが私の「禅」ですかね。(笑)総長は、大学の先輩でもあり、いろんなことを教えていただき、面倒をみて下さいました。
 
歌枕:素晴らしい師匠に恵まれましたね。
 
総長:和尚は、人から教えてもらうことが全然苦にならないから、まわりのいろんな人から教えてもらい、積極的に学んでいましたね。
 
住職:そして、25歳という若さで、本山の特命住職として初山宝林寺に入り、住職の仕事をしながら2年間は本山主事として勉強させていただきました。
 
管長:初山 宝林寺は、文化財のある大きなお寺です。修行から出てすぐにあんな大きなお寺をみるのはまれで、いろんな面において大変なことだったと思います。町や役場に交渉され、普通の人が住職に入っていたら、修復までできなかったと思います。
 
住職:はじめは四面楚歌の状況でしたが、祖父との約束を果たすために、やるだけでした。
 
 
黄檗宗 大本山萬福寺
 
歌枕:来年は、黄檗宗祖である隠元禅師がお亡くなりになられて、350年の節目の年とお伺いしました。
 
総長:中国福建省から渡日された隠元隆琦禅師を開山とし、江戸幕府第四代将軍徳川家綱公の開基によって寛文元年(1661年)建立された禅宗寺院です。萬福寺は令和4年(2022年)に宗祖隠元禅師の350回目の年忌を迎えます。
 
歌枕:黄檗宗は、他の仏教とどのようにちがうのでしょうか。
 
管長:黄檗宗も他の宗派も、もとは仏教だから一緒ですね。十三派五十六種類あり、お釈迦様の教え・真理は同じですが、方便 手段が宗派によって違います。お釈迦様のすべてを理解することはできないので、得意分野を教える。それが黄檗宗では、「禅」をどう気づけるのかということですね。隠元禅師は、中国の文化との「融合禅」を伝えています。今、350年を迎えて、原点に立ち返らないと行けない時期です。
 
歌枕:禅を気付くですか?
 
管長:禅をどう気付けるのか。例えば、コロナがあって、一般的にはこういう時に、仏教が問われてきます。一つは「祈り」、自分自身の心の問題ですね。座禅をし心を見開く。コロナになって、座禅の会の人数が増えましたね。
 
歌枕:多くの人がコロナ渦によって、ストレスを抱えられているのですね。
 
管長:はい。心の悩み、いろんなストレスを感じられている、それをときほぐすために来られます。座禅をやったからこうなるだろうというのではなく、座禅から、いろんなものが湧いてくる。それをひとつひとつ受け止め、消化して行くということが大切です。
 
総長:「ありがとう」という気持ちが、普通に湧いてこなくなります。普通に水を飲めない国もあるのに、水にありがとうという気持ちがあったら、水を飲めることに幸せを感じます。所変われば、家もない、屋根もない、ストリートチルドレンもいる。いろんなものが身の回りにあり、それに感謝することができれば、幸せがあります。何でもしてもらってる、生かしてもらってる、今いるだけで幸せを感じます。
 
歌枕:普通に暮らしていると、すべてのことが普通に当たり前になって、感謝の気持ちを忘れて、もっともっととなっていきがちです。5年前に脳出血で倒れて、右半身不随になり、まずは感覚を戻す事から始まり、立ち上がり、服を自分で着れる様になりと、そういうことから、気付きをもらいました。毎日朝が来る、毎日ご飯を普通にいただける。それがどんなに感謝すべきことかと、人生が変わりました。それまでついていたいろんな垢が取っ払われ、その域に達せれたというのは、禅に近づいたということでしょうか。
 
管長:はい。禅に気付くという事です。
 
歌枕:生かされたということには、意味があると思いました。声を出す、歩くことが、とても恐怖でしたが、いろんな力を借りながら超えることができました。それに気付けたことが有難かったです。本当に心の底から思います。
 
住職:挫折など、どんなことがかけていても、今の自分は存在しない。良い事も、悪い事もあって、今の自分があると思います。「難が有りと書いて、有難う。」ですね。
 
 
みをつくし
 
歌枕:初山宝林寺のある奥浜名湖は、自然と歴史のある素晴らしい所ですね。
 
住職:はい。歴史と文化の交差点ですね。中山道、東海道、姫街道、そして井伊家、近藤家とあり、公家からしても拠点としている場所です。
 
歌枕:昔から、拠点だったのですね。
 
住職:本山でとある老僧から「小僧の時、『東に進むとまず出会う黄檗宗のお寺。それが初山宝林寺だ』と聞かされて育った」と聞きました。しかし今は、本山で浜松の初山宝林寺と言っても誰も知らない。「よし。私が『浜松に初山宝林寺あり』を復活させよう」と小僧ながら目標をたてました。
 
歌枕:そこでどうされたのですか?
 
住職:住職となり数年経つと、市町村合併により細江町から浜松市になりました。浜松市長がコラムの中に「新東名ができる、文化の面から浜松にお迎え、玄関口をつくれば」と書かれていました。そこで、奥浜名湖にある五つのお寺に話にいき、湖北五山協議会をつくりました。そして、市の担当者に、主要道路に看板、チラシ等を観光協会に依頼するなどして、20年経ってやっと「まぁ知ってるかな」という感じになってきました。
 
歌枕:自分のお寺だけでなく、地域を活性化して行くことは大変なご苦労だったと思います。先日の方丈での公演の時、ぱっと天井を見た時に、後ろから力をもらった気がしました。そして翌日、近藤家のお墓参りにいって、もっと歴史を知らないといけないと思いました。ガラシャの亡くなった1600年、その数年後に、宝林寺ができていて、大事なものをつないで行ってくれる人がいて、私はここに立たせていただいていると思いました。
 
住職:私は細江町の名前の由来・町のシンボルマークの由来を知りませんでした。歌枕さんの「みをつくし」を聴いた時に、「細江?みをつくし?あっ!これか!」と気づき、この歌に心惹かれました。
 
歌枕:ありがとうございます。また観光のビデオで流していただき光栄です。
 
住職:12月の夕刻に観光のビデオができて来て、赤に染まる宝林寺と歌枕さんの歌がマッチして涙がとまらなかったです。仏殿に雲が流れている映像見ながら、歌枕さんのソプラノヴォイスでの歌を聴いていると、「正に歴史を見守り人生のみをつくしであったのが初山宝林寺なんだ」と気付きました。歌枕さんのソプラノ、初山宝林寺350年、万葉集1300年の歴史がつながっていって、このお寺を建てた近藤さんも独湛禅師もこのウグイスの声を聴いていたんだなと思い、本当に感動しました。
 
歌枕:ありがとうございます。宝林寺は、そういう良い気があるところで、みんなの祈りがあるからだと思います。
 
住職:禅、無の境地、悟りとかいう言葉が出てきます。気付き、老師、森羅万象、すべてみたり感じたもの、すべて気付きを持ってみることができる、悟り続けている、どんな状況でも、何にでも、感動できる自分でいたいと、そして時間がもったいないという気持ちになりました。
 
歌枕:おっしゃる意味が、とても良くわかります。私も病気のお陰で、見え方が変わって、本当にそのように思います。
 
住職:歌枕さんは会社をはじめられて30年とのこと、私は25歳で住職になり、あと3年で30年です。普通であれば、今から住職になる年齢です。だからこそ、もっとなすべき事があると思っています。これからも宜しくお願い致します。
 
歌枕:本日は、貴重な場所にお招きいただきまして、大変感謝致しております。本当にありがとうございました。これからも宜しくお願い致します。
 
 

関塚 哲心(せきづか てっしん)

黄檗宗初山宝林寺

近藤 博道(こんどう はくどう)

黄檗宗管長、黄檗宗萬福寺住職

荒木 将旭(あらき しょうきょく)

黄檗宗宗務総長、黄檗宗大本山萬福寺執事長